石原ケミカル社の株価算定
株式算定(バリュエーションとも呼ぶ)はDCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)にて行われることが一般的であり、当事務所もその方法を採用します。しかし本当にそのDCFという方法で正しい株価は導き出されるのでしょうか。今回は上場企業である石原ケミカル(4462)の財務データを基に、当事務所で算定した額と、実際の市場株価を比較してみました。すると当事務所算定額と結果は一致しませんでした。なので当事務所で石原ケミカル社の中期経営計画を合理的に修正したところ、算定結果がほぼ同じ金額になりました。以下に計算方法を述べます。
中期経営計画修正前の計算結果
石原ケミカル社の中期経営計画に、損益計算書の見込みが記載されていますので抜粋します。
この中期経営計画は当期純利益まで示していますが、一般的には、営業利益までしか示しません。なぜかというと、営業外の活動による損益までは計画策定時に予想しないためです。本来は営業外活動も含んだ当期純利益を基に将来キャッシュフローを計算すべきなので、今回当期純利益から株価を算定します。数値をDCF計算式に当てはめたのが下記です。評価基準日は22年3月31日です。
なお、ベータ(※)は簡易的にロイター社を参考にします。26年以降の成長率はゼロとします。退職給付に関わる負債は有利子負債として企業価値から除きますが、WACCの計算には含みません。
※ 石原ケミカル社のベータは市場に存在するため、わざわざアンレバードベータにする必要はありません。アンレバードは競合他社の資産ベータ平均を算出し評価対象会社のWACCに使用するためのものです。
すると、一株2175円となります。実際の3月31日時点の株価は1250円だったので、算定結果に1.7倍の差が生じます。
原因はおそらく損益計算書の見込み数値に問題があるからです。下の棒グラフは石原ケミカル社の売上推移(億円)です。灰色の見込み売上が急上昇している印象があります。22年3月期は確かに好調でしたが、競争の激しい成熟産業である化学業界において、本当にそれが今後も継続し、見込みを達成できるのでしょうか。
中期経営計画はあくまで経営層の理想の数字ですので、実際に達成できるかどうかはわかりませんし、多くの会社は残念ながら見込みに達しないのが実情であるのは、経営者が一番把握しています。
中期経営計画修正後の計算結果
23年3月期以降は成長しない、という前提に修正し、その年のフリーキャッシュフロー15億円を株主資本コスト5.7%で割ると、株主価値は212億円となり、それを発行済株数で割ると一株1300円となり、実際金額とほぼ同じになりました。
実際に業者が株価算定する際は、顧客が提供する将来予想数値をベースに行います。そして予想数値の現実性を鑑み、修正した結果を基に計算します。
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