石井米国公認会計士事務所

海外子会社管理をお手伝いします

上場は経営者にとってメリットがあるか?

ある日、当事務所へ頂いたご相談

以前、自社を海外で上場させたいので、自社の過半数の株式を持つ東証の親会社を説得する資料を作成してほしい、というご相談を当事務所に頂きました。しかし私には、このような子会社上場が親会社にとってメリットがある、と理論的に説明することができないと判断したため、丁重にお断りさせていただいたことがあります。

お断りさせていただいた理由

なぜ理論的に説得できないと考えたかと言いますと、ファイナンス理論上、上場しても経営者や親会社には、得することはないからです。

上場時の新株発行で資金調達しそれを元手に新規投資しても、その投資は既存事業の延長であるのが一般的です。例えば工場を新設する、海外子会社を設立する、といったことです。それら投資の収益は、上図左にあるように、新規株主へ還元されます。つまり、既存株主の持分株価は上がりません

一方、もしその新規投資が既存事業以上の収益が見込めることが明白ならば、上図右にあるように、既存株主もその事業収益の恩恵を得ることができるため、既存株価は上がります。しかしこのようなケースは稀であるのは、経営者が一番知るところのはずです。

また、上場すると、監査費用や内部統制を整備するガバナンスコストが追加で発生します。このコストは決して小さいものではなく、株主価値を下げる要因となります。

そして、ご相談いただいた子会社上場の場合、市場で流通する株は少ないので、外部投資家は少数株主になります。その場合、少数株主への利益相反の問題から、株価が市場で過小評価され、親会社が持つ子会社株式価値はあるべき額よりもディスカウントされるため、結果として、親会社の資産価値が今よりも下がってしまい、強いては親会社の株価も下がるでしょう。

一方、上場することにより株式に流動性が加わるため、その分価値が上がることも想定されます。つまり、流動性ディスカウントの逆のパターンです。非上場企業の株価算定実務では、通常2~3割ほど非流動性ディスカウントを考慮するので、上場すれば逆にそれぐらい価値が上がるとも考えられます。しかしこの増加価値は上記要素と結局相殺されます。

従って、上場しても既存株主の株式価値は上がることはなく、メリットはありません。以上がご相談をお断りさせていただいた理由です。